北アルプスは白馬岳から南下する山脈と剣岳から南下する山脈とがあり、その交わる点が三俣蓮華岳近辺で、
そこからひとつになった山脈は槍・穂高へと続く。この二つの山脈の真中を流れるのが黒部川で、鷲羽岳の側の岩苔乗越から流下して上の廊下、黒四ダム、下の
廊下を経て日本海に注ぐ。黒四ダムから下流の下の廊下は秋口になって雪渓が消えないと通れない難路ではあるが、基本的には登山道があり、条件さえ整えば割
合容易に通過できる。
一方上流は東沢出合までは登山道はあるが、そこから道は川から離れて読売新道を経て赤牛岳に登ってしまう。あくまで沢を遡ろうとすると東沢出合からは上の廊下という完全な沢登りの世界になってしまう。みろく山の会では2010年、私も含めて6人のメンバーで挑戦して渓中2ビバークで突破することができた。このルートは国内の沢登りのルートとしては上級に属しており、平均年齢61歳(当時)のパーティーとしては、自慢できる内容のものであった。
ただ、このルートはその核心部を過ぎるとやがて薬師沢小屋から高天原への登山道にぶつかるため、通常沢登りはここまでというのが常識となっている。我々も薬師沢小屋から太郎平を経て有峰湖へ下山した。
しかし、上の廊下は本当に素晴らしかったが、結局は黒部川の一部を遡行したにすぎず、やはりその水源まで登りつめたいという思いは残った。この夏、当時のメンバー3名と新たに1名の4名で上の廊下より上部を歩く事ができたので報告したい。
7月28日 有峰湖の登山口である折立で宿泊。
7月29日 太郎平を経て薬師沢小屋に宿泊。
7月30日 曇りで時々雨がパラつく天気であったが、黒部川を上流に向って遡行、支流の赤木沢に入った。赤木沢は黒部の支流の中では美渓の名が高く、比較的容易なため多くの遡行者を迎える。みろく山の会でも毎年のように山行が組まれている。今年は7月に台風が多く、黒部川の水量は上の廊下のときよりかなり多かったが、それでも順調に登り、中俣乗越には予定の時間で到着した。ここから黒部五郎岳を経て黒部五郎乗越小屋に宿泊した。
7月31日、大快晴のもと、三俣蓮華小屋まで歩き、
ここから黒部川へ下る。ここに「黒部川水源地」の石碑があり、一応の公式な水源地である。ここで沢道具の準備をして黒部川源流の下降を開始する。今年は雪
渓も多く、200mくらい雪渓を下るところもあったが、多くは崩れかかっており、草付きを高巻いて下った。雪渓が無くなると後は渡渉を繰り返して下降を続
ける。空には雲ひとつ無い大快晴で、滴るばかりの緑と透明な水流に酔いしれる。結局4時間半ほど下ると赤木沢の出合の滝の上に出た。ここは左岸から滝を巻いて下り、赤木沢の合流点を腰上の深さの渡渉で突破した。ここからは前日に通過したところなので、後は慎重に下るだけ。薬師沢小屋には16時20分に到着。早速祝杯を上げた。11時間の行動時間であった。特別技術的に困難な所はなかったが、総合的な登山の力がいる場所と言えるだろう。
8月1日はもと来た道を帰るだけ。素晴らしい大快晴だが暑さに閉口する。太郎平まで登り返して大休止。折立に下った。
こうして黒部川は上の廊下から源流まで足跡を繋げることができた。本当は薬師沢小屋から遡行したほうがより完璧なのだが、せっかく持って行く沢道具は遡行後には単に荷物になるだけなので、折角なら赤木沢と組み合わせて2日間沢を楽しもうということで、下降というルート取りになった。この結果、2日間黒部川源流の沢と山を存分に楽しむことができたし、何となく残っていた不完全な思いも払拭することができた。黒部の沢を信頼する仲間と歩けたことに感謝している。
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