第三回日本横断夢の縦走② 五色ヶ原~薬師岳~雲ノ平
    (2015.9.18-23)
 
 
 2009年夏、登山家の田部井淳子さんとNHKアナウンサーが今回のルートを縦走しているテレビ番組を観ていて「こんな素敵な所いつか自分も絶対歩くぞ!!」と思っていた。6年の月日が流れやっと叶える時が来た。しかも、みろくに入会した時から夢見ていた日本横断で!! 二つの夢が同時に実現できるなんて人生そうそうあるもんじゃない。
生きてて良かった。

              隊長のジャンボ高橋
              渋い山屋の中村(直)
              ニコニコ大臣の横山
               カモシカの船戸
               教育係の武沢
                春風の大場
              ふんわりわたあめの原
               努力の中村(志)
              スーパーパワーの野澤
               (以下:敬称略)



9月18日(金)曇    都庁大型バス駐車場23:00発 毎日アルペン号    zzz
9月19日(土)霧・晴  前回の続きから歩く(室堂~浄土山~五色ヶ原

               行動 5時間35分


                    夕食  椎茸入り肉団子
                         海藻サラダ
                         シジミスープ






 10年に一度らしい秋の5連休となる「シルバーウィーク」の初日とあって立山駅の駐車場はマイカーで満車になっていた。立山有料道路のゲートが開く7:30を待って我々のバスは2台目に通過した。バスのフロントはワイパーが作動していたが霧の中でもアルペンルートの両側には黄色、赤と木々が色づいているのが確認でき、これから歩く山に期待を膨らませた。到着した室堂バスターミナルは登山客、観光客でごった返していて今日のテン場の事を脳裏にかすめながら雨具の装着等準備 をし玉殿湧水で水を汲み体操して記念写真を撮り4泊5日の横断②がスタートした。天気予報通り空は回復に向かい、歩き出して10分程して合羽は要らなくなり、人の少なくなった登山道途中で恒例の気合入れを横山がした。先を歩く一般の登山者が何事かと振り返って見ていた。
 チングルマが紅葉し可愛らしい綿毛にな ってる登山道を室堂山方向に進み浄土 山との分岐辺りでは下山のグループもいて連休の賑わいを見せていた。
 富山大学立山研究所の建物裏手から存在感のある堂々とした龍王岳が臨めたが登らずに巻いて鬼岳、獅子岳とアップダウンを繰り返す頃には時折日も差してきて前回歩いた剱岳や雄山が遠望出来一同感激する。 
   
 また、東側の山の斜面には一ノ越山荘から東一ノ越の登山道が帯のように長くよく見えた。

 獅子岳からザラ峠までの下りはまさにザラザラとした急な歩きにくい道だった。峠からの登り返しはさほどでもなく間もなく遠くに五色ヶ原のテン場が臨めまだ余裕がありそうでホッとする。テント受付とビール調達のため五色ヶ原山荘への木道を進み準備万端にして本日のテン場に無事に到着。水場とトイレの近くの平坦な砂場に2張り張ることが出来、お決まりの至福の時間となったが、自分で言うのも変だが珍しく船戸の体調が悪く大好きなビールも飲めず一人テントで横になり夕食はシジミスープのみを頂き、原から処方されたパブロンを服用し明日は治っていますようにと祈りつつ早々とシュラフに潜った。 
   
【室堂8:50→獅子岳12:14→ザラ峠13:15→五色ヶ原テン場14:25】

9月20日(日)晴  槍が見えた(五色ヶ原~越中沢岳~スゴ乗越小屋テン場)
             行動  6時間10分
             朝食  うどんor蕎麦
             夕食  五目寿司・高野豆腐と昆布と切干大根煮物・お吸物
   

 4:30起床。船戸は元気回復、食欲モリモリ。皆さんご心配をお掛けしました。
本日の行程が短いのでゆっくりの6時出発のはずがみんなテキパキと朝食、撤収、パッキングを済ませ5:50に歩き出す事が出来た。横断山行2回目にしてテント山行のエキスパートになり素晴らしい!! 
   

 東の空がオレンジ色になり針ノ木岳や船窪岳の山容がくっきり見えていい兆候の朝だ。今日の気合入れは中村(志)。鷲岳を目前にして五色ヶ原山荘まで戻り南下し、まずは鳶山に登る。後ろを振り返れば五色ヶ原も朝日に染まり、剱岳と雄山は雲のベールをまとい、美しい光景に心が奪われる。
 鳶山から越中沢乗越に下り広い斜面を越中沢岳に登る。この山の山頂からの下りと次のスゴノ頭からの下りは小石交じりのザレた急坂で滑りやすく気を使いながら慎重に下りた。翌日遠くからでもこの2座は尖って見えなかなか手強い山だと感じた。緊張の下りを終えてスゴ乗越で一息入れ30分程で本日のテン場、スゴ乗越小屋に到着。テン場は狭く既にギューギュー状態だったが高橋テントは何とか場所を確保、船戸テントがウロウロ困っていると奥のテントの方が「この茂みの奥にテン場がある」と教えてくれ、お礼を言って行ってみたら4~5張り張れそうな場所があり船戸テントは一番奥の平らな砂地、まさに一等地にテントを張る事が出来た。
 秘密(?)のテン場でメンバー全員今日の至福の時間を過ごした。夕飯の五目ずしは疲れた身体に酢飯は嬉しく美味しく頂いた。
 
 ただ一つ残念なのがここのトイレの利用はかなりの覚悟がいる。

  【五色ヶ原テン場5:50→鳶山6:50→越中沢岳8:33→スゴ乗越小屋12:00】
  

9月21日(月) 晴  薬師岳に向かう(スゴ乗越小屋~薬師岳~薬師峠テン場)
                行動   6時間10分
                朝食   ワンタン入り春雨スープ
                夕食   サンマのひつまぶし・人参と切干大根サラダ
   

 船戸テントは6時発だと聞いたが出発時間の伝達ミスにも関わらず5時半に出発出来た。
いよいよ今日は百名山の薬師岳に登る。今日の気合入れは原。小屋を出発して直ぐにブルーベリーがたわわになっていて野澤、中村(直)、船戸はパクパク食べながら行く。当然前のメンバーと距離が開く。船戸は思わず高橋隊長に「ブルーベリー食べた~い」とぼやく。以後時々メンバー全員で自然の恵みを有り難く頂く。
 昨日から時折後ろから「北アルプスパノラマトレイルツアー」というゼッケンを付けたトレランが追い越していく。 本日の1座目の間山で参加者にインタビューしたところ、タイムや順位を争うレースでは無く室堂から上高地70キロ2泊、もしくは折立35キロ1泊、小屋に宿泊しながら雲上の縦走路をゆくトレイルツアーだとの事。どうりで参加者は必至の形相ではなく山歩きを楽しんでいる様子だった。それにしても相当な体力と精神力が無ければ3日間で歩ける距離ではない。色々な山の楽しみ方があるもんだと感心した。そんな爽やかな登山者もいれば、「ペースが明らかに違うんで先に行かせてくれ」と後ろから無理やり狭い道を追い越していく登山者もいた。人格の差が顕著に表れるのも山なんだなぁ~。
   

 爽やかなトレイルツアー者を何人も見送りつつ登る北薬師岳へのルートは大きな岩と隙間だらけで、岩を選び、バランスをとりながらの歩きにくい道だった。幸い濡れていなくフリクションが効いたので良かった。

 目線の先には今回のメインの山「薬師岳」がド~ンと待っている。テンションも上がってきた。東側が削れた道を気を付けながら進むと北薬師岳に到着した。目指す薬師岳本峰はコースタイム40分だがはるか先に思えた。











 2800mを超えると高山帯となり金作谷カールがアリ地獄のように見える岩ガラガラの斜面を反時計回りに進む。9:35登頂。山頂は大勢の登山者で賑わっていた。我々も祠に参拝し記念写真を撮り各々登頂の喜びを噛み締めながら山頂からの景色を眺めたりして20分程過ごした。








 後ろ髪をひかれながら薬師岳山荘に下るが小石がいっぱいの道なので一歩一歩着実に歩みを進めた。次から次へとカールが現れ申し分のない景色だった。懸念すべきは本日の麦のエキスの調達でありテン場には無いとの情報から薬師岳山荘で購入して行く事に決めて各自適量をザックに納める。軽量化が今回の横断のスローガンだがそれとこれは別だ。テン場まで1時間以上あるというのに大した執念・・いや見上げた根性だ(笑)
   
 かくして辿りついた薬師峠のテン場では2時の受け付け前にメンバーで至福の時間を過ごす事が出来た。本日も無事に終了。めでたし・めでたし。
夕飯のサンマのひつまぶしは作り方に迷ったがなかなかの美味であった。 
                 
    【スゴ乗越テン場5:30→薬師岳10:29→薬師峠テン場11:40】


9月22日(火) 晴 天国の雲ノ平(薬師峠~薬師沢~雲ノ平~三俣山荘テン場)
               行動   9時間30分
               朝食   トマトリゾット
               夕食   シジミと生姜の炊込みご飯・おかか鰯・味噌汁
   

 本日の行程が9時間を超えるのとテン場確保の為4:38、ヘッドライトを付けて出発。
星が瞬き、雲一つない空、快晴は保証された。
 太郎平までの木道は霜が付き滑る。そう言えば今朝のフライシートは霜でバリバリに凍っていて撤収する手が冷たかった。これからの季節は何事も手袋をはめて操作しなければいけないんだと実感。太郎平小屋前で体操と気合入れ。今日の気合入れは野澤。メンバーが小さな輪になり小さな声で「行くぞ~、オー」と囁く。続く薬師沢への下りの木道も滑る。
 慎重に歩を進めるがダブル中村が仲良く滑った。沢には丸太橋もありこれもまた渡るのに緊張を強いられた。左俣出合を過ぎた頃には雲ノ平からの登山者とすれ違いが多くなりお互いに声をかけながら譲り合った。出発から2時間かけて着いた薬師沢小屋で休憩をとり、美しい黒部川をカメラに納め赤木沢に思いを馳せる。
 サ~!!吊り橋を渡り、いよいよ雲ノ平への急登が始まる。丸っこく苔の付いた滑る石、木の根、半端ない段差を忍耐で登っていく。下りの登山者が「ここを登るのは大変ね~、頑張ってしか言いようがないわね~」と言っていたが下る方が忍耐ではないかと内心思っていた。それを裏付けるように足を捻挫した方や木道で転倒して脳震盪を起こした方がいて登りも下りも侮れないルートだ。
 
 メンバーの横山が岩に足を取られ転んだ拍子に後ろの武沢にぶつかり武沢もかなりの勢いで転んでしまった。横山の体重+ザックの重量を支える事は誰も出来ない。幸い二人共大事に至らず安堵する。横山の「ウーッ!!」「アーッ!!」「オーッ!!」等の呻きは続く・・・。
 天国への道は甘くない。傾斜のキツイ樹林帯の道は北アルプスいちの急登だと思う。
 目線の先にはスカイラインが見え傾斜も緩くなってきた頃に木道がやっと現れた。雲ノ平の入口、アラスカ庭園で記念写真。歩みを進めて行くと絶景が広がる。まさにここは天国だ。奥日本庭園からは黒部五郎岳、薬師岳、赤牛岳、水晶岳、槍ヶ岳、雲一つない360°のパノラマと紅葉にしばし呆然とする。上空では脳震盪の負傷者をピックアップするのかヘリが旋回している。
   

 山の最深部に入り自分の小ささを感じつつ自分も自然の一部になったような気持ちになる。全ての事に改めて感謝。山よアリガトウ。雲ノ平山荘で靴を脱いで食堂で大休憩。山で食べるカップ麺は最高のご馳走だった。
ここでも本日のテン場三俣山荘の貴重なビール情報を得て缶ビールをザックに納める。
 途中スイス庭園で高天原と赤牛岳、水晶岳の展望を満喫してから正規の登山道に戻り黒部源流を目指す。どこを見ても山・山・山・紅葉・紅葉・紅葉でテンションは上がりっぱなしだ。来年歩く槍、穂高連峰も姿を現し野澤が「待ってろよ~来年行くからな~」と叫んでいた。源流への下りは当たり前だがこれでもかと言うほど下る。
 たどり着いた源流の冷たい水で顔を洗いタオルも濡らし身体を拭く。水もウマイ。ここから三俣山荘テン場まではこれも当たり前だが下った分登り返しがえげつない・・・。やっとこさ今日の宿に到着しテントを乾かしながらお決まりの至福の時間。周りのテントの方達は「何でビールを飲んでいるんだろう・・」と横目で見ている。頑張って担いできて良かった。大場はお酒を嗜まないが酒のつまみをいつも出してくれる。ありがと~♪♪

 鷲羽岳をバックに今日の素晴らしかった景色の話に盛り上がる。夕飯はシジミと生姜の炊込みご飯。炊き上がりと共に生姜の香りがテントの中に広がる。ウマイ!!





【薬師峠テン場4:38→薬師沢小屋7:30→雲ノ平10:41→三俣山荘14:18】



9月23日(水) 晴   お風呂に入れる(三俣テン場~双六小屋~鏡平~新穂高)               行動   7時間10分                        朝食   乾燥野菜入り温麺


 お風呂の時間確保のため三俣蓮華岳と双六岳はパスすることとし、巻道コースを歩く事に決めヘッデンを付けて4:38歩き始めた。今朝の気合入れは中村(直)静かなテン場で静かに行う。最終日のトップは船戸に変わり二番手の横山に気を配りながら歩くが暗い中真ん中のメンバーまで気が回らず多少離れる。高橋隊長より注意を受け反省・・・。
 三俣蓮華岳と巻道の分岐を左に進む頃には東の空が赤くなり最終日の今日も晴天が約束された。 所々立ち止まり景色を眺めたり写真を撮ったりして双六岳分岐を6:30通過し双六小屋で休憩を取る。大きな鷲羽岳の存在感がたまらなくいい。船戸はまだ登った事がないので心の中で鷲羽岳に再び会いに来る事を誓う。
 ゆっくりもしていられない。弓折岳分岐に向かう道は西穂から槍ヶ岳までの岩々の稜線がくっきり確認できる展望の尾根道だった。キレットがこれでもかと窪んでいた。分岐は通過して鏡平山荘へ一気に下る。鏡池はどこか?と思ったがそれより何よりかき氷や牛乳など身体が欲する誘惑に負けてベンチで寛ぐ。頭の中はお風呂の事、下山して何を食べるか、生ビール、果物、肉etcと下界モードになってきた。
 歩き初めて直ぐに有名な鏡池があった。穏やかな池面は槍ヶ岳を映していてカメラマンがいっぱい。                                             









 

 シシウドヶ原、イタドリヶ原を通過し秩父沢で顔を洗い、いよいよ縦走も終盤、ワサビ平小屋に到着10:38。大きな木をくりぬいた入れ物には水が流れトマト・キューリ・リンゴ・オレンジ・バナナが浮かんで売られていて、生物に飢えていたメンバーは貪るように食べる。果汁が身体に滲みてくる。あと一時間で今回の縦走も終わる。中村(志)は寂しいなぁとつぶやいていた。そして新穂高に11:50到着。
 

 巻道を使った事もあり予定より早く着いたのでタクシーの迎え時間も早くしてもらった。会計の野澤が初日に都庁駐車場で確保していた割引券を利用し「奥飛騨の湯」で5日分の汗を流し、生ビールと食事で無事の下山に笑顔がこぼれる。連休最終日のため松本駅までの道路は渋滞を予想していたが以外にも順調に走り、途中でリンゴやおやきの購入も出来た。
松本駅16:30発の臨時あずさを先頭に並び全員座って帰ることが出来最後の最後まで恵まれた山行だった。
 初日の霧雨以外すべての行程が天気に恵まれ、まさに「山装う」北アルプス最深部の展望を心ゆくまで楽しみ全員事故も怪我も無く全う出来たことが何より嬉しい。
山っていいなぁ。仲間っていいなぁ。今回も実感した。皆さん有難うございました。

    【三俣テン場4:38→双六小屋6:40→鏡平8:13→新穂高11:50】
                                       船戸・記