中央分水嶺踏破シリーズ8

碓井峠〜鼻曲山 山行記

 

 今年の分水嶺の締めくくりは、和美峠から碓井峠、鼻曲山を経由して、浅間山の入山禁止ポイントまでの行程。碓井峠までは、五月連休の分水嶺3で歩く予定だったのだが、別荘地の通過に思わぬ時間を費やし、途中撤退したコースのリベンジに当たる。前日の雪で真白な衣をまとった浅間山を見ながらの軽快なスノーハイキングとなった。

 

 


2月12日 土曜日 晴れ

 久しぶりに本格的に降った雨も明け方には上がる。東京発6:52のあさま503号に乗る。北に向かうにつれ青空も見えてきたが、碓井峠トンネルを抜けると、一転、霧の世界だった。軽井沢駅から予約していたジャンボタクシーに乗る。運転手の話によると、この季節は、いつも朝霧に包まれるのだという。和美峠でタクシーを降り、閉鎖された舗装道の入り口でストレッチをする。10cmほどの溶けかかった積雪。



 
8:58出発。今日のトップは、エリザベス。この道は別荘の開発のために作られたようだが、使われないままに放置されている。倒木をくぐったり、跨いだりしながら進むと、すぐに突き当たりになる。林の斜面を登り分水嶺の尾根に乗る。すぐ北側のピークに向けて急な斜面をジグザグに登っていく。5月の途中撤退の後に下見に来たときには、トラバースする踏み跡を見つけたのだが、今回は積雪のため見つけられずに頂部まで登ってしまった。そこには明瞭な踏み跡があった。トラバース道よりも余程眺めが良いし、なにしろ正しい分水嶺の尾根だ。いつの間にかガスも消えて林の隙間からは真っ白に雪化粧した浅間山が見える。白い噴煙が青空に映える。尾根は右にカーブしながら愛宕山に向かっている。分水嶺の尾根は直進するのだが、そこは車道を通すために切り崩されている。少し手前から車道に降りなくてはいけない。下見のときには、下から見上げて、ここなら降りれそうだと思った斜面だったが、上から見るとかなりの傾斜だ。エジンバラがトップになり、枝につかまれるルートを選びながら慎重に下る。

 10:00-08 降り立ったところで最初の一本。第一関門を1時間で通過。よいペースだ。信号のない車道を渡り、県境の標識の脇から反対側の尾根に取り付く。切り崩された斜面の縁を登っていくと、青テープを見つけた。いよいよ、薮の始まり。気合いを入れて突入するが、何分も歩かないうちに明瞭な踏み跡となった。薮を漕ぐ労力はいらないが、ぐずぐずとした雪の登りで体力を使う。長野側にはなだらかな林になっているが、群馬側は切り立った断崖だ。しばらく行くと、先に岩峰が見えてきた。エリザベスとエジンバラが、「あの岩落ちてきそう」などとしゃべりながら進もうとすると、武ちゃんが「ちょっと待って」という。その尾根は左に曲がる支尾根。新幹線の中でルートを予習した要注意ポイントだと。でも、右側は崖のはず、と思いながらもよく見ると確かに右手に伸びる尾根があるようだ。尾根を下りると、右側から車道が近付いてきた。入山峠だ。林道によじ登って陸橋で車道を渡る。






 12:12-33 林道わきの林で昼食タイムとする。予定時刻よりもだいぶ遅れている。快調に歩いているような気がするのだが、重たい雪がスピードを落とす原因になっているようだ。ここからも歩きやすい林間コースだが、右側は絶壁が続く。地図で「かまど岩」と書かれた地点を通過するが、岩には気付かなかった。右手には妙義の奇岩が見える。小さなアップダウンを繰り返しながら登っていくと、前方にリフトの駅が見えてきた。矢ヶ崎山だ。



 13:34-46 ひとしきりの急登で頂上に立つ。軽井沢の街並みの先に浅間山。碓井峠の先には、恐怖の別荘が散在しているのも見える。矢ヶ崎山の北側は断崖になっている。踏み跡があり、エジンバラが偵察してみたが、安全策を取り西側を巻いて北側の尾根に取り付いた。昭文社の地図の登山道は、矢ヶ崎峠の方向に迂回しているが、分水嶺の尾根沿いに進むことができた。碓氷峠に向かって一直線に下っていく。



 14:22-34 碓井峠に降り立つ。反対側の尾根に少し上ったところで一本立てる。この先も、日の差し込む林が続いており、歩くのに支障はなさそうだ。「国土調査」と書かれた石標が転々と設置されている。しばらく歩いていくと、前方に別荘が見えてきた。5月には南軽井沢の別荘地で立ち入り禁止の立て札に阻まれ、大きく回り道をさせられた。恐るおそる近づいていく。別荘は分水嶺の直ぐそばにも立っているが、その裏を明瞭な路がまっすぐに通っている。今回は、なんの障害も無く別荘地を抜けられた。さらに、だらだらと坂道を登っていく。突然、左手に東屋が現れた。



 16:05 見晴台の公園に到着。広い公園には、長野県・群馬県の境界を示す標識が立ち、境界線に沿って石が並べられている。奥のほうには水道がある。下見のときに水が出ることを確認していたのだが、今日は水が出てこない。冬季は凍結防止の為に元を止めているようだ。まあ、峠の茶店に降りれば水は得られるだろうと判断し、ここを幕営地とすることにする。境界線の群馬側にテントを並べて張る。

 一段落してから峠に下りてみる。坂道を50mほど降りたところには立派な公衆トイレがあった。中は暖房されているようで、水も上水道が引かれているようだ。ここで給水はOK。峠の茶屋は、閉まっている所が多かったが、一軒、明かりがついていた店でビールを購入。その後、熊野神社にお参りする。神社の参道の真ん中に県境が通っており、お賽銭箱も、長野側、群馬側それぞれにある。

 テントに戻って夕食の準備をする。先ずは、網をだして、小鯵を焼く。今日は、武ちゃんの誕生日。一緒に乾杯しようねと言っていたのだが、もう待っていられない、小さな声で乾杯する。隣のテントでは、岩井さんのガソリンバーナのヒーティングをしている。ガソリンバーナは冬には頼れる火力があるが、若干手間がかかるのが難点。ようやく隣のテントも準備が出来たようで、大きな声で「武ちゃん、誕生日おめでとう」と乾杯する。小鯵の次には、ゴマいわしを焼く。テント全体が燻製状態になるが、熱燗には魚がよく合う。エリザベスに差し入れてもらった、梅酒の新酒、ヤブクイーンの花梨酒には、チーズ巻き。高野豆腐の刻み昆布煮に、きのこ汁と盛りだくさんのメニューで満腹したが、エジンバラが炊いた100点満点のすし御飯もきれいに平らげてしまった。

 

12月13日 日曜日 晴れ

 4:45に起床の予定だったが、4時半前には隣のテントで声がしだしたので、こちらも起きる。昨夜は、若い人のグループが来て、「夜景が綺麗」とか「あっ、飛んだ」などと騒いでいたらしい。極大を迎えたふたご座流星群を見に来たのだろう。僕は、ぐっすり寝ていて気がつかなかったけど。

 朝食はリクエストどおりミネストローネのおじや。あっさりとした味と、とろりとしたチーズが冬の朝にはぴったりだ。テントを撤収。高崎の町の光の先の空が、茜色に染まっている。

 6:22 出発。最初のトップは金子さん。峠を過ぎて、中仙道の古い石祠が立ち並ぶところから登山道に入る。昨日は、溶けた雪が靴に付いたが、今朝はざくざくと踏みしめていける。なだらかな坂道を登っていく。



 7:25-30 一文字山は、ほとんど同じ標高の尾根が続いているだけで、どこが頂上か分からない。標識を過ぎたところで一本立てる。ここで、岩井さんにトップを代わる。留夫山へは、一旦、鞍部に下ってから、急坂を登り返す。今回の最高齢、とのことだけど重い荷物を持っても体力十分。

 8:30-39 留夫山。ここでトップを清水さんに代わる。ここから鼻曲山の間にも、小さなピークがいくつもあり、アップダウンを繰り返す。前回は、登りでずるずる滑っていた清水さんも今日は快調だ。新調した冬靴が優秀なのか、腕を上げたのか?歩き振りに見とれて1時間半のロングピッチを刻んでしまった。



 10:10-25 鼻曲山は双耳峰。手前のピークが大天狗。ここでザックを下ろして休憩。通りかかった登山者に、情報誌の山行記に載せる全員揃った写真を撮ってもらう。

 10:28-32 50mほど離れたところが小天狗。こちらからは正面に浅間山が見える。端正な円錐形が純白に覆われている。ここで再び集合写真を撮る。長日向に降りる登山道を左に分けて、国境平を目指す。昭文社の地図には書かれていないルートだが、標識もしっかりある立派な道だ。だれの足跡もないバージンスノーをトップの武ちゃんが一気に下る。



 11:17-24 道は分水嶺を逸れてプレジデントリゾート軽井沢のスノーパークに入る。スノーシューコースとして整備された道。ヤブクイーンには物足りない平易なルート。

 11:46 国境平に着く。ここからは、分水嶺に沿って車道が続いている。分水嶺である以上、歩かないといけない。タクシーは4.5km先の国道に13時に呼んである。トップのどんぶり姫に、時速4.5kmで歩いてもらうようにお願いする。初めは平坦だったが直ぐに上り坂になった。すでに、浅間山の裾野に入っているのだ。最後が登りとは想定外だった。必死に歩く。救いは前方にみえる浅間山の雄姿。



 12:51 ぴったりのコースタイムで国道146号に着く。ここから先、分水嶺はまっすぐ浅間山に登っていくが、噴火口の風下にあたり入山禁止。当分の間は、ここは空白のまま残る。予定通りストレッチが出来る時間についたが、すでにタクシーが来ていたので、そのまま乗り込んで、トンボの湯に向かう。¥1200の料金は、軽井沢価格だがゆったりした施設は満足できる。男湯から最初に出てきたのはなんとエジンバラ。ちょっと待った君の称号は返上でしょうか?代わりにしっかりと待たせてくれたのは会計さんでした。

 直ぐ隣にある「村民食堂」で反省会。しゃれた定食と地ビールで忘年会となる。シャトルバスに乗り軽井沢駅で降りる。来た時にあった積雪は、すっかりなくなっていた。



 

 2009年、計画した8回の分水嶺山行を1回の中止も無く、そして、一度の事故も無く完了できた。これまでに参加してくれた、すべての方々に感謝したい。25年の全体計画から見れば小さな一歩。でも、希望に向けた大きな一歩だった。今回の山行で、長野・群馬県境は、ほぼ踏破したことになる。残区間の一つは浅間山の東稜線。当分の間、登山禁止が解除になる見込みはないし、解除されても、前半の密林地帯を抜けるのは難しいだろう。そのうちに、温泉山行でも企画して麓を迂回してつなげることにしよう。残りは、野反湖から白砂山。これは3月下旬に三国峠までのロングコースとして計画している。これまでの山行とは難度もリスクも異なる。熱い情熱と謙虚な心構えを持って挑戦を続けよう。

 

12月12日 歩行距離 10.6km 行動時間 7:14 累積登攀標高 1178m 累積下降標高 947m

12月13日 歩行距離 14.0km 行動時間 6:29 累積登攀標高 996m 累積下降標高 804m