中央分水嶺踏破シリーズ5

浅間山〜湯ノ丸 山行記

 

標高の低い分水嶺では、真夏に歩けるルートは少ない。標高2000mを越え、一般道も整備されている浅間山は、数少ない夏ルートの一つだ。前回の終着点からは少しジャンプしてしまうが、浅間山から地蔵峠、そして、湯ノ丸山から鳥居峠までのルートを、海の日の3連休を利用して実施した。初日、二日目は日本海の梅雨前線と低気圧の為に霧中山行となったが、キャンプサイトでの贅沢な時間を楽しんだ。最終日は待望の展望と、意外と厳しかった薮を突破して、予定のルートを完踏した。

 

 


7月17日 金曜日 雨

 高尾駅で軍曹と合流し、早速、気象状況の確認を行う。日本海にある梅雨前線上を低気圧が発達しながら進んでおり、津軽海峡付近で990hPaまで発達する可能性があるとのこと。低気圧の東側の前線の影響を受ける初日よりも、低気圧の西側の寒冷前線による強風が心配。出がけに、トムラウシで10名が死亡する遭難のニュースを聞いてきたばかり。このときには、988hPaの低気圧が稚内を通過して暴風雨になっている。日曜日の天気図は、その時と似たような気圧配置になりそうだ。今回の行程には避難ルートは豊富にあるものの、慎重な状況判断が必要だ。

小淵沢に着くと、小海線のホームの待合室で、エジンバラと薮クイーンが寝ていた。いつも先行組だったエリザベスは、王室行事参加?のため、明朝の新幹線でくるらしい。

 

7月18日 土曜日 雨

 5時に起きる。藪クイーンがエジンバラの背中に乗って、緩めてあった電球をねじ込んで照明をつける。この辺り、すっかり常連客。空には雲が広がっているが、大きく崩れそうな感じはしない。6:10の小海線の始発に乗る。途中駅で乗ってくる高校生たちの会話を子守唄に、うとうとしていたら小諸に到着。始発の長野新幹線から佐久平で小海線に乗りついできたメンバーと合流する。我々を待っている間に、生鮮野菜とフルーツをゲットしてくれたらしい。

8:30 ジャンボタクシーに乗り込む。チェリーパークラインから脇道に入る。未舗装道路になり、相当に揺れる。浅間山荘に着くとともに雨がふりだした。駐車場の屋根の下に逃げ込んでストレッチをする。雨は霧雨程度。合羽を着るかどうか悩んだが、着ても汗で濡れるだけなので、着ずに歩くことにする。



9:22軍曹を先頭に出発。しっとりと濡れた深い緑の道を緩やかに登っていくと9:53、一ノ鳥居で、二股に分かれる。沢沿いの道を選ぶと、10:07不動の滝につく。



残念ながら特段感動するような滝ではない。少し休んで10:15出発。右岸を登ったところに二ノ鳥居がある。ここからは尾根の道となる。長坂と呼ばれているところだ。道がトラバース気味になると、硫黄の匂いがしてきた。右手の沢の方から風に乗って流れてくるようだ。ちょっと危険を感じるほどの匂い。黄色く染まった沢を眺めていると、ふと動くものをみつけた。カモシカだ。




こんなところに住んでいて、硫化水素中毒にならないのだろうか?そこからしばらく登ると11:08火山館に着いた。




一階はシェルターとトイレになっている。2階の半分ほどがビジタースペースになっている。市から委託を受けた管理人さん一年中常駐している。奥のスペースを使わせていただいて昼食とする。女性陣がトイレに行った後、綺麗なトイレをありがとうございます、と、口々に礼を言うと、趣味ですから、とさりげない答えが返ってきた。ストーブの前にしばらくいたら、濡れていたズボンが乾いた。

11:31火山館を出発。少し登ったところがあやめ平。ちょうど見ごろだ。



しばらく行くと、二人づれとすれ違う。今日初めて会った登山者だ。上では、大粒の雨と風で散々だったとのこと。タイミングが悪かったのね、ご愁傷さま。前掛山への登り口にはロープが張ってあった。現在は警戒レベル2なので、ここから先は立ち入り禁止だ。左側のJバンドへ向かう道を進む。賽ノ河原と呼ばれる場所で、殺伐としたところを想像していたが、思いの外緑が多い。ただ、大きな岩がそこかしこに落ちている。噴火で飛んできた岩なのであろうか?背が低い松は、ハイマツではなくカラマツのようだ。自然の破壊力と植物の生命力がしのぎを削っている。浅間山の山頂のガスはなかなか晴れず、これが本日のベストショットであった。




Jバンドを外輪山の火口壁を登っていく。シャクナゲが咲いている。



12:33鋸岳に到着。ここで分水嶺にのる。分水嶺は、ここから浅間山の山頂、東側の稜線へと伸びているのだが、入山禁止になっている。「関東ぐるり」の上野さんは1986年に歩いているが、火山館の管理人さんの話だと、昭和48年以降は入山禁止となっているとのこと。今ほど厳しい規制ではなかったのかなぁ。僕が生きている間に、登山規制が解除されることはたぶんないだろう。北側に小さな湖が見える。エジンバラが田代湖だと言う。僕は、あんなに小さいはずがない、と最初は懐疑的だったが、良く地図で確認すると確かに田代湖だった。眼下の高原野菜の畑を見ながら、先発隊が小諸駅で入手してくれたブルーベリーを食べる。大粒で甘い。12:48外輪山の淵を西に進む。ここから湯ノ丸までは、北側が群馬県で太平洋側、南側が長野県で日本海側になる。本州の分水嶺で、これだけはっきりと西進するのは、ここだけだ。どうにもしっくりと来ない。



いくつか小さなピークを越えて、13:10に仙人岳に着く。三角点で記念撮影をして、先に進む。このあたりは眺望が良いとされているが、見えるのはガスばかり。しかし、心配したほどの風もなく気温も低めで、歩くのには快適な天気ともいえる。13:26蛇骨岳に着く。頂上の大岩に「蛇骨岳」の標識がかけられている。



一休止しながら地図を確認する。ここから稜線をしばらく下って、登り返したところが、今回の山行の最高峰、黒斑山だ。12:36大岩の北側の登山道に入る。しばらく下ると、虫の大群に出会う。刺す虫ではないがザックカバーに雨のようにぶつかり、口や耳に飛び込んでくる。早く抜け切ろうと先を急ぐ。なかなか登りにならないなぁ、と不思議に思いながら下っていくと、道が北側に曲がった。いくらなんでも、北進することはないだろうと、GPSを確認すると分水嶺からずいぶん外れてしまっている。14:00来た道を引き返す。再び、虫の大群に突入、ラストを歩いていた下りでも、うっとうしい虫たちだったが、トップで歩くと、目を開けているのが嫌になるほどの大群だった。14:30蛇骨岳まで登り返し、頂上の大岩の上でルートの確認をする。南西の延びる登山道を発見。一休止しながら皆でルート間違いの反省をする。間違えた道は昭文社の地図に破線で載っている車坂峠に直接降りる道だ。国土地理院の地形図には載っていない。エリザベスが持ってきていた地図では、蛇骨岳ではなくて、黒斑山の手前から分岐している。原因1は、地図の登山道を過信し蛇骨岳で分岐があることを認識していなかったこと。原因2は、頂部から先に進む際に必須の尾根の方位確認をしなかったこと。そして、長い下りに違和感を感じながらも、途中で立ち止まって現在位置を確認しなかったことも反省点である。



14:41外輪山の稜線を南西に進む。はっきりした尾根上の道だ。本来は左側に浅間山が大きく見えるはずだが、今日は何も見えない。黒斑山の手前で、先ほど間違えた道に合流する道を分けて、15:07黒斑山に到着。


15:17出発。15:36トーミの頭を通過。浅間山の監視カメラが設置されていて太いケーブルが車坂方面に延びている。15:48槍ケ鞘のシェルターを通過。鋼板のドームの内側にゴムが張られている。ドアや窓はない。緩やかな尾根を下ると16:46車坂峠に着く。17時に頼んでおいたジャンボタクシーが待っていてすぐに乗り込む。ルートミスはあったものの、健脚ぞろいで予定通りの行動時間で初日を終える。17:16「あさまの森オートキャンプ場」に到着。持参した2張りのテントを張るつもりだったが、なるべくならばテントは濡らしたくない。コッテージが空いてないか聞くが、これは満室。でも、オートキャンプ用の3mx3mのテントの貸し出しができるとのこと。小雨の中、手早くテントを張る。



角丸四角形吹き出し: これ


エジンバラが前室工事をして快適な空間ができた。地ビールで乾杯。小諸で入手した新鮮なモロッコインゲン、軍曹の、キュウリのゆかり和え。主食は五目御飯と、角煮。やはり、全員が一つのテントだと会話が盛り上がる。寝るときには少し窮屈だったけれど。

 

7月19日 日曜日 雨

 テントを返却して6:00にタクシーで車坂峠に向かう。キャンプ場では雨は降っていなかったけれど、登るにつれて風雨が強まる。高峰高原ホテルの軒先を拝借して雨具を着て、ストレッチを行う。今日は、エリザベスを先頭に歩く。6:43出発。ホテルの裏から高峯山への登山道に入ると風はやんだ。雨も小雨になる。やはり、我々は天気運は良いようだ。ニッコウキスゲ、ウスユキソウ、テガタチドリなどが、そこかしこに咲いている。分水嶺に従って、高峯山の手前のピークを高峰温泉の方に下る。温泉の前で一服してから、7:40水ノ塔山に向かう。スキー場のリフトを過ぎたあたりから、岩稜の尾根になる。時々15m/sぐらいの強風が吹く。



8:30に水ノ登山に到着。

クレオパトラの靴ずれの予防処置をして8:45に出発。9:24東篭ノ登山に到着。ここには一等三角点がある。風を避けて頂上の手前のシャクナゲの傍らで休憩する。



ここから県境は、西篭ノ登山から安易に谷を横切って地蔵岳に向かっているが、分水嶺は池ノ平の淵を通っている。9:40南西の尾根道を下る。ここまで、ほとんど登山者に合わなかったが、この辺りでは軽装の登山者によく出会う。10:12池ノ平の休憩所で昼食とする。時間に余裕があるのでコッフェルでお湯を沸かして、それぞれ好きな飲み物を楽しむ。

壁に営林署が作成したと思われる大きな地形図が貼り出されていた。分水嶺の尾根を同定する。池ノ平の外輪山の淵を雷の丘まで登り、北に延びるなだらかの尾根から北西の尾根に乗り、湯の丸スキー場の第4リフトに沿って下るのが分水嶺のようだ。しかし、自然保護の観点から登山道に沿って地蔵峠まで下ることにする。途中、花を愛でながらゆっくりと歩いて、11:55に地蔵峠に着く。東御市のビジターハウスである、浅間山麓国際自然学校に寄る。壁には、分水嶺のポスターが貼ってあった。



 



展示されていたジオラマで、これまで来た道、明日歩くルートの確認をする。湯ノ丸高原ホテルでテントサイトの受付を行う。ここでもテントを張る予定だったが、5畳のコッテージが
\5.200で借りられるとのことで、これにする。道を渡ったところにある売店がロッジ家紋。この屋根が分水嶺になっている。屋根には分水嶺を示す表示が取り付けられていた。ロッジで、アイスクリームを食べ、ビール、日本酒などを調達する。レジの隣に一玉百円のキャベツが売られていたのでゲットする。



12:08、10分ほど歩くとキャンプ場に着いた。プレハブの簡易な建物だが、昨日よりも少し広い。部屋の中でストレッチをする。エジンバラはテラスにフライを張って前室を作る。



夕食までのひと時、すぐそばにあるあやめ園を散策したりして過ごす。先ずは、キャベツを魚に酒を飲む。甘く、しゃきしゃきのキャベツに、能登半島・仁江の揚げ浜塩田の甘い塩、ピリッとしたモンゴルのジャムツダウスという岩塩、彩り美しいゆかりなどをつけて食べると、手が止まらない。軍曹が天気図を取っている間に、笠本さんが無洗米を炊く。おいしく炊けた御飯に銀座のカレーを食べる。今日は、昨日よりもゆったりと寝られた。


 

7月20日 月曜 海の日 晴

軍曹にホテルまでコッテージのカギを返してきてもらい、6:08に出発。今日の先頭は藪クイーン。

 

リフトの頂上駅まで登ると昨日歩いた東篭ノ登山から続く分水嶺の尾根が一望できる。湯ノ丸山まではよく整備された登山道を登る。高度があがるにつれ、周りの山々が見えてくる。そして、ついに篭ノ登山の稜線から浅間山が頭を出した。7:08湯ノ丸山に着く。360度の眺望に感動。南に眼をやると、金峰の隣に富士山が見える、そして八ヶ岳、中央アルプス、御嶽、北アルプスが一望できる。四阿山から草津白根、谷川と続く分水嶺の稜線も追える。




7:19北に続く尾根を少し行くと、北峰の表示があるピークに着く。正面に四阿山。左手には雲に浮かぶ妙高。そして、足元にはこれから歩く、角間峠が見える。



全員で、これから歩く稜線の確認を行う。角間峠からは角間山に向けてトラバースする道が見えるが、分水嶺は直登だ。その先、1832の大ヤリ手前を北に曲がるところがポイント。8:11角間峠に到着して薮装備を整える。北峰から見えた登山道の脇に、踏み跡らしいものを見つけ8:29突入。



笹は肩程度、笹はそれほど強靭ではなく順調に登っていく。9:03に角間山からの稜線に出て、再度ルートの確認をする。北側の尾根に20mほど下ってから西の尾根に入る。踏み跡はあったりなかったりだが、藪クイーンのしなやかな薮捌きと、エジンバラのナビで道を切り開いていく。



9:50大ヤリの手前のピークから北の尾根に入る。小ヤリへの登りは厳しい薮で先頭を交代しながら登る。最後は笠本さんのパワーで、ぐぐいと登る。11:10小ヤリに到着。奥和熊山1626mの標識がある。傍の木には、新しいプレートで1780mの表示。こちらが正しい。

 

12:24大塚山に到着。プレートは見つからない。タクシー会社に連絡。13:00と連絡したあったのだが、すでに鳥居峠で待っているとのこと。運転手の携帯電話を聞いて、申し訳ないが、あと2時間ほど待っていてもらいたい旨を伝える。さらに厳しいヤブが続く。尾根が広く、明瞭な踏み跡はない。男性陣がトップで道を切り開く。最後は僕がトップに立つ。ラストで歩いていたときにはしなやかに見えた笹もトップで歩くと、複雑に絡み合っていて容易には道を開けてくれない。このようなところは、大股でざくざく歩くのが早いのだが、それでは先鋒の意味がないので、脛に体重をかけて気合いを入れて道を切り開く。2番手の藪クイーンがさらに道を広げ、エジンバラと軍曹がGPSでルートを支持する。最強のチームワークで薮を駆け下りて、13:50林道に出会う。轍が草に覆われた道を下っていくと、キャベツ畑に出た。正面には10月に登る予定の吾妻屋さんが見える。



13:18待っていてくれたタクシーに乗り込む。すぐそばの渋沢の湯に寄ってもらうつもりだったが、営業していなかったので、さなだ館で入浴。上田駅への途中、あまりにも汚いエジンバラのズボンをユニクロで買う。上田駅で反省会の後、満員の新幹線で帰路に着く。

 


 

関東甲信越は例年より6日も早く梅雨明けしたものの、梅雨の戻りの天気が続いている。気象庁では毎年8月の下旬に梅雨の期間の再検討をすることになっているが、梅雨明けの日付を見直す可能性があると言っているようだ。しかし、心配していたような強風には合わず、霧雨程度の雨で済み、かえってこの季節の山行としては快適だったのかもしれない。2日とも整備されたキャンプサイトでの贅沢な食事と、メンバー揃っての団欒。そして、最終日の町に待った展望、思いの外、戦いがいのあった薮と充実した山行になった。これからが楽しみだ。今年は、野反湖までを歩いて、長野県境をほぼ終えることができる。来年は新潟県境に舞台を進める。季節によっては、那須や蔵王方面に浮気をするのも良いだろう。贅沢な遊び、、ですね。

 

7月18日 歩行距離 12.5km 行動時間 7:24 累積登攀標高 1567m 累積下降標高  1016m

7月19日 歩行距離 8.1km 行動時間 5:25 累積登攀標高 625m 累積下降標高  879m

7月20日 歩行距離 9.6km 行動時間 8:04 累積登攀標高 923m 累積下降標高  1237m