分水嶺チームでは、太平洋側の川の流れる先によって関東の範囲を定義をしている。中部地方との境は、天竜川/富士川を分ける赤岳、東北地方との境は、那珂川/阿武隈川を分ける那須の三本槍岳である。今回は、関東の北端、三本槍岳に1泊2日で出かけた。頂上からは、利根川水系に属する山から、遥か、最上川水系に属する山まで、残雪が輝く峰々を展望することができた。
2012年4月14日 土曜日 雨
7:10 上野発の東武線。2週間前に乗ったときは車窓から残雪輝く山々が望めたが、今回は雨模様。車内でのネタに、と持ってきた5月連休の平ヶ岳の山行計画案を取り出す。女性陣は、早速、食糧計画について相談を始めた。五昼夜分の献立を立てるのはなかなか大変。しかも、初日からきつい登りなので軽量化も重要項目。三時間半の乗車時間を使って納得のメニューが決まったようだ。男鹿高原駅を過ぎて、山王トンネルで分水嶺をくぐる。雨は、時々弱くはなるものの、降り続けている。合羽を着て、スパッツをつける。
10:42 田島駅に着き、待っていたジャンボタクシーに乗る。メンバーは定員ぴったりの9名。養鱒公園の駅前を南に曲がり、しばらく走ると観音沼森林公園。そのすぐ先で、通行止めのロープがある。その先も除雪されていて、車で入れそうだったけれど、タクシーはここで停まる。田島タクシーは、とても親切で料金も安いのだけど、商売っ気がないのが欠点だ。ザックをおろし、小雨の中でストレッチをする。
11:24 林道歩きのスタート。雨は降っているが、明日の晴天は疑いのないのでメンバーの顔は明るい。天気予報では、午後3時、ないし、午後6時頃に雨が上がることになっている。できれば、3時までに上がってくれて、雪のテーブルを囲んで夕食を楽しみたいと期待しながら歩く。
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タクシーを降りる、もう少し先まで行ってくれても、
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雨の中、林道をひた歩く
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11:55−12:00 日暮滝の案内板の近くで休憩。会津藩第二代藩主 加藤明成が三斗小屋から大峠を超えてきた後、この滝の大パノラマに心を奪われ岩に腰を据えて日が暮れるまで動かなかった、と能書きがある。ヘアピンカーブを登り高度を稼ぐ。路面の積雪も徐々に厚みを増していく。上り坂になると汗をかく。
13:32−37 ヨロイ沢を超えたところで休憩。林道は、雪の下を水が流れてスノーブリッジになっていて歩けない。林道を右手に見ながら樹林を抜ける。
14:37 鏡ヶ沼への分岐を左に分けて、ほぼ水平に尾根をトラバースしている林道を行くが、知らない間にルートよりも登ってしまったようだ。GPSで峠の方向を確かめ、深い雪に足を取られながら樹林の中をトラバースする。
15:25 大峠の標識に到着。風が強く、立ち止まらずにテントサイトを探す。三本槍の方向に50mほど行った灌木の陰をテントサイトと定め、スコップで整地する。いつもまにか雨は雪に変わっている。ストレッチも省略してテントに潜り込む。残念ながら雪のテーブルでの夕食は断念。平ヶ岳で使うこと想定して入手したコッフェルとバーナのセットを取り出す。プリムスのEtapower MFと、熱効率を高めるフィンが付いた1.7L,2.1L,2.9Lのコッフェル。ガスボンベ専用のEtapower EFと2.1Lのコッフェルは日本でも入手可能だが、ガスに加えてガソリン、灯油も使えるマルチフュエル(MF)、および、1.7L、2.9Lのコッフェルは日本では売られていないので、アメリカから通販で取り寄せたものだ。バーナもコッフェルも、やや重いのだが、熱効率がいいので長期山行では燃料の軽量化を期待できると購入した。自宅での熱効率の評価実験のことなどを書き出すと止まらなくなるので、ここではやめておこう。僕が気合を入れてコッフェルを持ってくるのに応えて、食担も気合を入れてスキヤキのメニューを準備してくれている。ガソリンの火力を囲んで皆で食べたかったが、風が強い気温も下がってきたので仕方がない。外でトイレづくりに励んでいたHsKが戻ってくるのを待って乾杯。今日は、お酒も豊富。こちらのテントだけで700mlのワインが3パック。それに梅酒も2本。やわらかい肉、しっかり味が染みた麩もおいしい。熱伝導のよいアルミの内側に焦げ防止としてチタンがコーティングされたコッフェルで、ご飯もおいしく炊けて一安心。
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スノーブリッジになった林道を右手に林を行く
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大峠、雪の中のテント設営
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2012年4月15日 日曜日 晴
3時に起床。昨夜のスキヤキの残り汁に餅を入れて朝食とする。風も収まり、月がきれい。
5:09 アイゼンを装着して出発。後ろには、流石山が見える。我々が歩いているところよりも一足早く朝日を浴びて輝いている。昨日降った新雪が所により20cmほど積もっているが、その下は雪がないところが多い。登山道は不明瞭だが歩きやすいところを探しながら登っていく。 1826mのピークを過ぎると風が強くなってきた。Etapowerと一緒に通販で買った風速計で測ると、平均的には7m/s程度、瞬間でも10m/sを少し超える程度で体感ほどは強くない。
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朝日が差す流石山
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新雪を踏み、関東シリーズ北端を登る
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7:37−52 分岐の少し手前で風がない場所を選んで休憩。ザックをここにデポして三本槍を目指すことにする。風は北東から吹いている、風下側は、風は弱いがハイマツの上にふんわりと雪が乗っていて歩きにくい。三本槍と甲子山の分岐を過ぎて三本槍を目指す。「三本槍のピストンはおまけだから省略してもいいんじゃない?」という声も上がるが、「三本槍こそ三分水嶺だから省けない。」と言って先を促す。これは僕の勘違いで、阿賀野川、那珂川、阿武隈川の三分水嶺は、先ほどの分岐点にあって、三本槍は那珂川、阿武隈川の分水嶺であった。
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三分水嶺への最後の登り
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ザックをデポして三本槍岳を目指す
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8:30−40 ウサギの足跡をトレースして最後の急坂を登り三本槍岳の頂上に立つ。素晴らしい展望。中央分水嶺に属するかどうかは別として、この景色を眺めることだけで、十分に来た甲斐がある。記念撮影の後、展望盤の表示と比較しながら山座同定をしていく。旭岳(赤崩山)の右側には、ピラミダルな磐梯山に続き、東吾妻山、安達太良山と今年計画している中央分水嶺の山が連なっている。左側には、飯豊山が威容を見せる。三倉山の右側には浅草岳、左側には、会津駒ケ岳が見える。男鹿岳から荒海山に続く中央分水嶺の尾根から南に視線を動かすと、日光白根、男体山が見える。展望盤によると富士山も見えることになっていたが確認できなかった。日が暮れるまで眺めていたかったが、すでに予定より遅れつつあり先を急ぐことにする。
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三本槍岳
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旭岳の左に飯豊山、右に磐梯山
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三倉山の左に越後駒と会津駒
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8:57−9:10 ザックをデポしていたところに戻る。今度は、風上側を歩いて分岐点に向かう。こちらの方が歩きやすい。分岐から北に進むはずなのだがルートがわからない。TkZがトップに立ちルートを探していると、HsKがふらふらと左の方に曲がって行ってしまう。単独行動の癖があるのは困ったことなのだが、今回はこちらの方が正しそうなので、TkZには停まっててもらい、先の様子を偵察する。登山道がどこを通っているかはわからないが、尾根としては正しそうなので、HsKを先頭に進む。ずぼずぼと沈む深雪地帯を過ぎると、急坂がになる。鞍部で鏡ヶ沼への道を分けると、狭い尾根を通過する。かわいらしい雪庇ができている。
10:20−30 須立山手前の肩で休憩。気温は10℃ぐらい。風速計では5m/sぐらいの風が吹いているけれど、日差しが温かく風が強いようには感じられない。風速と体が感じる風の強さとは、ずいぶん違いがあるようだ。水分をしっかり取って先に進む。
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須立山からの急斜面を下る
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11:00−08 須立山頂上に着く。13:30に甲子温泉に着き、ゆっくり風呂に入ってからタクシーで帰る予定だったけれど、風呂に入るのは絶望的になってきた。15:00に予約していたタクシーを16:00に変更する。須立山から急坂を下る。登山道に沿ってトラロープが張られているが、一番傾斜が急なところでロープが雪に埋まっていて掘り出せない。僕が先頭に立って慎重に降りるが、雪の塊ごと3mほどスリップする。2番手のHsKも同じようにスリップ。二人で斜面の雪掃除ができたので、3番手からは後ろ向きになってキックステップで降りる。その間に、補助ロープを出して、後半4名はゴボウで降りる。その先も、トラロープを頼りに鞍部まで下る。
12:46 旭岳の手前で夏道は分水嶺の尾根を外れて東斜面のトラバースに入る。我々も分水嶺にはこだわらず夏道沿いに行くことにする。東側には小さな雪庇ができているが、雪庇が小さなところをスコップで崩してルートを開く。急な斜面をトラバースする。雪が柔らかいのでスリップの心配はないが、いたるところに雪庇から雪団子が落ちた跡がある。しばらく進むと傾斜が緩くなり、左手に窪地が見えてくる。雪の下には坊主沼があるはずだ。沼の東側のトラバースする。右手の小ピークの上には3年前に建て替えられたばかりの避難小屋があるはずだが、案内の表示などは見つけられなかった。突然「ヤッホー」という声が聞こえる。見上げると旭岳の頂上で手を振っている人影が見えた。こちらも手を振りかえす。トラバースを終えたところで、登山道は旧道と新道に分かれる。2万5千図には旧道しかかかれていないのでGPSには旧道を登録してきたが、ピンクのテープが新道に誘ってくれるので、それに従うことにした。ときどき、吹き溜まりに嵌まりながらするむ。
14:11 分水嶺の尾根に戻る。甲子峠まで100m足らずの登り。一気に登ることにする。しばらくすると、後ろから小走りに駆けあがってくる人がいた。みるみると近づいて抜き去っていた。先ほど、「ヤッホー」と声をかけてくれた人だ。クライミングの装備を身に着けている。旭岳の西壁を登ってきたとこのと。少し遅れて相棒も登ってきた。
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クライマーはあっという間に我々を抜き甲子山山頂に立った
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14:37−45 甲子山の山頂に立つ。タクシーの予約を17:00に変更。重たい雪に夏のコースタイムの2倍以上の時間を要してしまった。分水嶺はさらに北へと続いていく。尾根は甲子峠を経て、2月に登った鎌房山へと続いていく。我々は、ここで分水嶺を離れて、東の尾根に甲子温泉に向かって下る。
15:17−32 ときどき、土が現れるようになってアイゼンを外す。まだ時間に余裕があると、コーヒーを飲む。
15:50 猿ヶ鼻を過ぎると急坂になる。夏道は九十九折になって下っているはずだが、雪に隠れている。先行したクライマー、二人組は直滑降で降りているようだ。我々も真っ直ぐに降りていく。クライマーの足跡を見ると一歩毎に1−2mほど滑りながら降りているようだ。僕もちょっと真似をして降りてみる。富士山の砂走りを下るように、あっという間に30mほども下る。砂走りと違うのは、雪の抵抗が一定しないことだ。すーっと滑ることもあるし、ずぼっと嵌まって急制動がかかるときもある。急制動がかかるとザックが振られて頭から落ちていきそうになる。無雪期だと登りは体力、下りは技術、だけど、雪の下りは筋力が要。急制動に耐える筋力がないと雪面を駆け下りるのは怖い。調子に乗っていると怪我をしそうだったので、上から降りてくるメンバーを待つ。一歩一歩慎重に降りてくる人、シリセードで降りてくる人、後ろ向きになって慎重にステップを切りながら降りてくる人、様々である。クライマー二人組や、昨年、丹後山で会った越後三山山友会のメンバーと我々では、技術も体力も全く違う。過去にエキスパートに歩かれたルートだからと言って、我々が安全に通れるとは限らない。分水嶺を隙間なくつなぐことに拘ってきたが、少し考え直した方がいいかもしれない。大人数で、食事にもこだわり、歩くことを楽しむのが我々のスタイル。極限を極めるエクスパートの山とは別次元のものではあるが、楽しさというスケールで測った時に見劣りするものではない。いつまでも続けていきたいスタイルである。
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シリセード、ザックセード?
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様々なスタイルで急斜面を下る
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16:55 甲子温泉 大黒屋に到着。待ってくれていた白河観光のジャンボタクシーに乗る。新白河の駅前のらーめん屋「かず枝」の前で降ろしてもらう。ビールで乾杯。ここの餃子は逸品。前回は食べられなかったラーメンも食べる。今回も、無事故の無災害。なによりなにより。
期待以上の好天に恵まれ、素晴らしい展望を堪能した。しかし、林道を歩いていたつもりがルートを外し、登山道のあるルートで想定外に時間がかかった。一泊二日の一般ルートといっても油断は大敵。平ヶ岳の前哨戦として、大変、意義深い山行となった。