甲武信ヶ岳は、その名の示すように三国境の山であると共に、荒川、富士川、信濃川の三分水嶺でもある。三宝山を経て三国山に続く荒川/信濃川(千曲川)の分水嶺は、2年前のシャクナゲの季節に踏破している。今回は、国師ヶ岳から金峰山に続く富士川/信濃川の分水嶺を歩く。金峰山から先は、昨年の11月に歩いているので、この山行により、富士川源流にあたる野辺山から利根川源流の大水上山までの長大なルートが繋がることになる。この山行は、KwSがチーフリーダとして計画を進めていたものだったが、実施の直前に腰を痛めたため、急遽 MuTがピンチヒッターとしてチーフリーダを努める事になった。
7月16日 土曜日 晴れ
8:45 普通電車で塩山に到着。改札口を出たところで待っていると、8:49に、あずさ51号、8:53には、あずさ3号が到着して、10名の参加者がそろう。KwS様と書かれたカードを持った運転手に付いて行く。西沢渓谷行きのバスを待つ長い列を横目に、駅前の通りを渡ったところが甲州タクシーの営業所だ。ジャンボタクシーと中型タクシーに分乗する。途中、セブンイレブンに寄って忘れた物を買い足して、一時間足らずで西沢渓谷入口に到着。標高は1100m。ここまできても日向は暑い。日陰に入ってストレッチをする。今回は全行程が登山道として整備されているBランクの山行である。余裕のある計画にして参加し易いようにしている。B山行で分水嶺の楽しさを知ってもらい、徐々に、C,Dランクのヤブ山行に引きずり込む作戦だ。今回も、分水嶺初参加者を一人迎えた。
9:50 出発。しばらくは林道を歩く。10:15 近丸新道の分岐を右に分ける。計画立案時に、尾根筋の徳ちゃん新道を登るか、ヌク沢沿いに登る近丸新道を登るかで若干の混乱があった。水辺の涼を取るか、尾根筋の風を取るか、の選択であるが、分水嶺はとしては尾根筋を選ぶ。沢沿いの道は古いトロッコ軌道の道だが最近は荒れているらしい
10:23 徳ちゃん新道に入る。トップはMuT,ラストはサブリーダのYmSというオーダ。暑さでばてないようにゆっくりしたペースで登る。10:44−50 1290mの肩で最初の休憩。登っている間は暑いが、休憩して、そよ風にあたるとリフレッシュする。30分毎に風通しが良い場所を選んでは休憩を取りながら登っていく。12:50 近丸新道と合流。さらに急登が続く、2番手のTkZが良いペースメーカになってゆっくりとしたペースをキープしていたが、後から「待って」の声がかかる。MoTが遅れている。昨年の海の日には、猛暑の谷川岳で最終日にばてた実績があるのだが、今回は初日から?と不安になったが、今回は、ばてたのではなくKioskで買った弁当が当ったようだ。後続組みを分離して先に進む。
|
|
|
木賊山の三等三角点
|
15:27−37 雁坂峠からの尾根と合流する。この尾根が荒川と富士川の分水嶺になっている。15:55−16:00 少し登ったところが木賊山だ。コンクリートと4つの石で守られた立派な三角点があるが、これは三等三角点である。木賊山と、甲武信ヶ岳、三宝山の三つの山は、江戸時代にはひとつの山と認識されていたらしい。明治の地図作成の際に、三国境に位置する甲武信ヶ岳にその地に因んだ名を与え、最も標高の高い三宝山には一等三角点が据えられ、木賊山には三等三角点が設置されたとのこと。
16:15 鞍部に向けて少し下り甲武信小屋に到着。テント場はすでに大分埋まっている。一番上のテラスに2張り分のスペースを確保してテントを設営する。体が冷える前にストレッチをしようと思っていたら後発組も無事に到着した。さて夕食の準備をしようとしていたら、上から小屋の主の徳ちゃんが、声をかけてきた。「そこは夕立が降ると水浸しになるよ」 見ると小屋からの雨樋が、ちょうどテントの上で口を開いている。うーむ、と思ったが、他によさそうなスペースも無いので、今日は夕立は無い、と踏んで良しとする。今回は2日とも営業小屋の脇のテントサイトなので、ビールが手に入る。小屋のビールは、箱から出して水の入った樽に入れたばかりだったが、ほどほどに冷えていた。ベンチを使わせてもらって夕食の準備をする。ワイン、ウィスキー、年季物の梅酒と酒もつまみも豊富。MuT班の御飯は、YmSの指導のもと、TuB班のMoTが炊く。合格点の炊きあがりだ。班毎に別メニューだったのだが、お互いに侵食して味見をする。今回の新作としては、油麩が好評だった。見た目は、まるでフランスパンだが、小麦粉のグルテンを揚げた宮城県の名産とのことだ。煮付けると、しっかりした食感でおいしい。2張りのテントに5人ずつ、ちょっと窮屈だが、ザックをツェルトに出して、互い違いになって寝る体勢を取る。暖かなので、シュラフは枕にして、シュラフカバーだけで丁度良い。明け方になって肌寒くなり長袖のシャツを着る。
7月17日 日曜日 晴
3:30 起床。女性陣が朝食の準備をしている間に、テントを撤収する。TuB班は、テントの中で朝食を食べているようだ。塩味の効いた御餅のスープを食べる。YmSさんの目が腫れている。虫にやられたようだ。耳をやられた人、腕をやられた人、と被害者続出。YmTさんの虫除けベール、今回は必携品だったようだ。深紅に染まっていた東の空が次第に明るくなり、真っ赤な朝日が顔を出した。
4:55 甲武信ヶ岳に向けて出発。時折、空身の若者が降りてくる。甲武信の頂上で朝日を眺めてきたのだろう。
5:14−20 甲武信ヶ岳の頂上。すっかり日もあがり、周囲の山々が良く見える。北アルプス、その右にに見えるのは妙高か。まったく雪が無くなった富士山もどっしりとした姿を見せている。南アルプスの方面は少し雲がかかっているようだ。
|
甲武信小屋から朝焼け
|
|
甲武信ヶ岳から望む富士山
|
|
|
甲武信ヶ岳
|
|
ここからが中央分水嶺となる。急な坂を下っていくと、5:40 千曲川源流への道を右に分ける。2年前の分水嶺4では、ここから下っているので、ここから新たな踏破が始まる。トップは、今年の新リーダのMoT。今日は体調も回復したようだ。平地でペースが上がりすぎるのを修正する。稜線の道は樹林の中で、展望は限られるが、この季節には日差しを遮ってくれて心地が良い。
6:13−28 富士見の手前で休憩を取る。予定よりも大分ペースが速い。2200mを超える標高で、昨日よりも気温が低く歩きやすい。真新しい100リットルのザックを担いだ若者4人組と抜きつ抜かれつで歩く。
7:57 東梓のピークを通過して、国師ヶ岳への登りにかかるとMoTのペースが落ちる。やはり、まだ体調が万全でないようだ。後に回ってもらう。体重不良なのかもしれない
11:48−56 国師ヶ岳から東に伸びる稜線のピークに着き小休止。MoTも合流して国師ヶ岳の山頂を目指す。
11:10−13 国師ヶ岳の山頂。ここには一等三角点がある。一等三角点は、約40kmの間隔で設置されることになっているが、三宝山と国師ヶ岳の距離は7kmほどしかない。どちらも、見晴らしという観点から重要なポイントなのだろう。分水嶺上の次の一等三角点は赤岳である。
11:21 北奥千丈岳は、分水嶺からは少し外れているが奥秩父の最高峰の山である。分岐にザックを置いて往復することにする。11:30−38 北奥千丈岳の頂上で展望を楽しむ。一番高い岩のてっぺんに登るのは、いつもHoRである。
|
|
一等三角点がある国師ヶ岳
|
秩父の最高峰 北奥千丈岳
|
分岐まで戻って、大弛小屋を目指す。時々、軽装の家族連れとすれ違う。大弛峠まで車でこれば、小一時間のハイキングで2500m超の涼と展望が楽しめる場所なのだ。
12:20 延々と木の階段を下ると太弛小屋に到着。まだ昼を過ぎたばかりだが、すでに沢山のテントが張られている。受付で交渉して2連続きのテントサイトを使わせてもらう。テントを設営してから、ベンチに陣取る。ここの小屋のビールも常温保存。それでも飲める程度の温度ではあるのだが、小屋番の指示に従って、水場のバケツに漬けて冷やす。カップ麺と同様、3分待てば飲み頃となる。皆揃って喉を潤した、と思ったのだが一人足りない。HrTが離れたベンチで難しい顔をしている。会計をお願いしたのだが、えらく几帳面に計算をしているようだ。SmZが応援に行ってようやく完了。皆揃って乾杯をする。まだ、時間が早いので、一旦はビールだけで終了、と思っていたが、ワインを飲み、シーバス12年物を飲み、ブランデーを飲み、としている間に、それなりの時間になったので、ちょっと早めの夕食とする。2班で分けて炊いた御飯は、どちらも少しかためだったが、何とかリカバリーする。今日の主食は、アマノフーズのカレー。これは、軽さとおいしさを兼ね備えた定番メニューとなっている。
今日のテントサイトは、ちょっと傾斜があったがフルサイズのマットを二つ折りにして快眠する。
7月18日 月曜日 海の日 晴
3:00 起床。昨日はテントサイトで朝日を迎えてしまったので、今日は、朝食前に出発、稜線に出てから朝日を見ながら朝食を取ることにする。
3:43 4時に出発のつもりだったが、今回は「ちょっと待った君」が参加しないためか、すべて前倒しで物事が進む。まだ、星が出ている中、ヘッドライトをつけて出発。次第に東の空が明るくなってくるが、昨日のような深紅の色ではない。4:16 朝日峠で水のみ休憩。さらに樹林帯を登る。東の空は大分明るくなった。前方の山肌はオレンジ色に照らされている。少しずつ、照らされる場所が下がってきて、ついに樹林の間から朝日が差した。
5:00−36 朝日岳に到着。はるか南海上にいる台風6号の影響が出始めたのか、今日は風が強い。風がよけられる窪みを探して朝食とする。暖かい貝柱のおじやが体に優しい。ここからは、もう一人の新リーダHrTにトップを歩いてもらう。一旦下り、鉄山の北側を巻くと金峰への登りとなる。
|
|
朝日岳からの朝日
|
金峰山越しに南アルプスを望む
|
6:31−44 肩まで登ったところで小休止。今日は、南アルプスの方面も良く見える。100Lザックの若者4人組が追い越していった。大分ばてているみたい。しっかりと体を鍛えて、しっかりとした山屋に育ってもらいたいものだ。
7;05 歩きにくい岩場を歩いていくと金峰山の頂上に着く。HoRは、とにかく一番高い岩に登って写真を撮る。少し下ると五丈岩。先ほどの若者が登ろうとしているが、見ているとハラハラするので先に進むことにする。
|
|
金峰山の山頂で八ヶ岳を背景に記念写真
|
五丈岩に挑む若者たち
|
しばらく下って後ろを振り返ると、五丈岩の頂上に若者が見えた。何とか無事に登ったようだ。金峰山からの下りは右側が垂直に切り立った岩嶺だ。この道は、8年前に単独で歩いたことがある。そのときには、甲武信ヶ岳から一気に歩いてきて、疲れていたこともあり、大分怖い思いをしながら下った記憶があるが、今回は緊張することも無く下る。数をこなせば、それなりに歩き方もうまくなるようである。千代の吹き上げでは、岩の割れ目から富士山が望めるということである。そのような場所が、何度も現れる。TbIが「ここではない」、「さっきのことだったかも」などといい、候補地を探しているうちに、道は北側の樹林帯へと下っていった。
|
|
時期は終わっているが健気に咲くハクサンシャクナゲ
|
千代の吹き上げ
|
8:47−58 大日岩に到着。ここで、前回歩いたルートと接続。野辺山から大水上山までの分水嶺ルートが連結された。早出をしたせいもあり、計画した時刻よりも1時間半も早い。タクシー会社に電話をして、13:00瑞垣山荘の予約を、13:00増富温泉に変更する。
10:03−13 富士見平小屋で最後の休憩。いくつかテントが張られており、若者の姿も多い。若者の間の登山ブームが定着してくれるとうれしいのだが。
10:45 瑞垣山荘に到着。バス停の前でストレッチをしていたらバスが到着。
11:20 満員で出発。20分ほど揺られて増富温泉に到着。全員が降りる。増富温泉は、ラジウム温泉ということだが、錆の匂いがする黄土色に濁った湯だ。源泉の温度は25℃。加熱していない浴槽に入ると最初は冷たいが、ゆっくり入っているとなかなか心地が良い。湯上りに牛乳を飲む。TuBの調査によると、暑い中で運動した後は、ビールを飲む前に牛乳を飲むのが体にいいそうだ。タクシーで、韮崎駅前のCoCo’sに行き、ビールで乾杯。
分水嶺17の平ガ岳では、強風でテントに閉じ込められて途中撤退。分水嶺18の南八ヶ岳は雨で中止。分水嶺19の田代山も最後に雨に降られて、ここのところ天気に恵まれない最近の分水嶺。海の日に予定した今回の山行も、梅雨明けが遅れると雨かもしれないと危惧していたのだが、今年は記録的に早い梅雨明け。南洋上の台風6号も到来までには余裕があり、途中で天気図を取る必要が無いような好天に恵まれた。下界は猛暑となったが、2000m超の樹林帯の稜線は、とても気持ちの良く歩けた。唯一の敵は虫だった。目や耳に被害を受けた人に比べれば軽傷と思っていたが、帰ってみると腕に十数か所の刺され傷。まあ、この程度は山で楽しむ代償として已むをえないか。